統合失調症の新しい治療法について(第1回)

院⻑、松本です。
統合失調症は100⼈に⼀⼈が発症する精神科領域の中核的疾患です。
 幻覚妄想だけでなく、慢性期には意欲低下や引きこもり、さらには気分の落ち込みなど様々な問題を起こす病気です。若くして発症し、その後の社会復帰が難しくなる⽅が多いため、社会的にみても重⼤な疾患といえるでしょう。

 副作⽤が少ないと⾔われる新しい薬(抗精神病薬といいます)が、最近10数年の間に続々と⽇本でも使われるようになり、治療法に進歩が⾒られることは明らかですが、その予後についてはまだまだ楽観できるものではありません。

 今回からは、私の専門のひとつである統合失調症の治療法について、治療薬とリハビリテーションに焦点をあてて、数回に分けて解説してみたいと思います。第⼀回目は、統合失調症の王道的な治療法、抗精神病薬による治療について解説します。

 抗精神病薬が統合失調症の治療に使われるようになったのは1950年代からです。クロールプロマジン(商品名︓ウインタミン、コントミン)という、それまで⿇酔薬として使われていた薬が統合失調症の興奮などの症状に効果があることが分かって応⽤されるようになったのが始まりです。そこから薬の開発が始まり、ハロペリドール(商品名︓セレネース、リントン)、レボメプロマジン(商品名︓ヒルナミン、レボトミン)など、現在でも使われている代表的な薬が⽣まれました。ただし、これらの旧世代(定型薬とも呼びます)の抗精神病薬には、動きを鈍くしたり、振るえがひどくなったり、不随意運動(⾃分でコントロールできない異常運動)などの副作⽤が⾒られ、さらに幻覚や妄想(通常では⾒られない異常な精神病体験)にしか効果が⾒られないという⽋点、限界があったのです。

 次回は、最近10〜20年で急速に発展して、臨床治療にも応⽤されてきている新しい抗精神病薬について解説することにします。

統合失調症の治療法について(第2回)

 前回は、旧世代の抗精神病薬が1950年代に登場したお話をさせていただきました。
これらの薬はドーパミンという神経伝達物質の流れを遮断することで幻覚や妄想(元来あってはならない異常体験が出現するという意味で、陽性症状と呼びます)を軽減することには⼤きく役⽴ちましたが、副作⽤、特に運動機能を悪化させる、の点で改善の余地がありました。最近10〜20年間の神経科学の進歩には目覚ましいものがあり、それらの知⾒に基づいて新しい抗精神病薬が登場してきました。今回はこれらの薬の話です。

 新しい抗精神病薬(新規抗精神病薬)は、いずれも以下の目標を達成するために開発されてきました。1)効果の改善 2)副作⽤の軽減 3)患者さんの社会復帰を助ける、などです。1)に関してですが、陽性症状だけでなく、ひきこもりや意欲の低下(元来あるはずの機能がなくなるという意味で、陰性症状と呼びます)、抑うつや不安などの感情⾯の症状などにも効果を表すように⼯夫されています。最近では、統合失調症の中核的症状である認知機能障害(これについては3)にも⼤きく関係するところなので、次回解説します)に対する効果も研究されています。副作⽤に関しては、運動系の副作⽤は⼤きく軽減され、患者さんのQOL向上に⼤きく役⽴ったわけですが、⾼脂⾎症、糖尿病、肥満などの⽣活習慣病に関係する新たな副作⽤があることがわかり、その対策を早期に⾏うことが望まれています。

 現在、⽇本で使われている新規薬には、リスパダール、ジプレキサ、セロクエル、ロナセン、ルーラン、エビリファイ、クロザリール(いずれも商品名です)などがあります。いずれもドーパミンだけでなくその他の神経伝達物質の流れを調整することで様々な効果を発揮します。各々の薬剤には特徴があり、患者さん⼀⼈ひとりで反応性も異なりますから、主治医の先⽣とよく話し合って、最も効果があり副作⽤の少ないものをじっくりと時間をかけて選びぬいてゆくことが⼤切です。

統合失調症の治療法(第3回)-認知機能障害について-

 統合失調症の症状の中では、幻覚、妄想など普段あるべきでないものが出てくる陽性症状、意欲低下や社会性の喪失などあるべきはずのものが失われる陰性症状がよく知られています。認知機能障害は、これらの症状と同列、ないしはそれ以上に重要な症状なのですが、あまりよく知られていないように思われます。難しい⾔葉ですが、統合失調症の特徴を知り、適切な治療をするには⽋かせない概念なので今回はこれについて紹介します。

 狭義の認知とは、外部からの情報を知覚し、判断し、記憶し、それに対して反応するという過程に関わる⼀連の脳機能をいいます。つまり、物事をスムーズに頭の中で処理する⼒のことです。これには、注意⼒、記憶⼒、遂⾏能⼒(実⾏能⼒)などが必要とされます。もう少し拡⼤した概念に、社会認知があります。社会認知とは集団の中で、刻々と変化していくメンバーの相互関係を把握し、それに応じて次にとるべき⾏動を臨機応変に選択し、適応的に⽣存していくために必要となる認知機能のことです。これには、他者に共感し、他者の⾏動を理解・予測・操作する能⼒が必要とされます。

 このような認知機能が、統合失調症の患者さんでは発症する前から存在していて、発症後にはさらに悪化することが知られています。加えて、患者さんには⾝辺⾃⽴、⾃律性、意志・意欲、社会性など、いわゆる「⾃分についての障害」が存在しています。これらの認知機能障害は精神症状以上に患者さんの⽣活における機能レベルと関連しており、以下のような⾷事、⾦銭、服装などの問題を含めた⽣活技能の不得⼿(⽣活障害)の原因になるのです。

・⼈付き合い、挨拶、気配りなどの対⼈関係の問題
・仕事場では⽣真⾯目と要領の悪さが共存し、飲み込みが悪く、習得が遅く、⼿順への無関⼼、能率
・技術の低さが、協⼒を必要とする仕事に困難をもたらす
・安定性に⽋け、持続性に乏しい
・現実離れ、⽣きがい、動機づけの乏しさ

パニック障害について

今回は、当クリニックに新たにおみえになる患者さんに多くみられるパニック障害についてお話します。

この疾患については、120年以上前の精神医学の教科書にWestphalという先⽣がすでに記載していて、現在の診断基準とほぼ同じであることに驚かされます。それによれば「動機もないのに⾃分でも説明のつかない不安や恐怖感に襲われ、震え、胸の圧迫感、動悸、熱感など様々な症状が出現し、⼀時的に気が狂いそうな感じや死の恐怖もみられる。そして患者はそのようなことが起こる場⾯・状況を回避する」とあります。男性(約2%)より⼥性(約5%)に多くみられ(平均3〜4%)、⽐較的若い時期(20代後半から30代前半にかけて)に発症します。症状は多彩で、最も多くみられるのが⼼悸亢進と呼吸困難ですが、その他にも以下のようなものがみられます。死の恐怖、発狂恐怖、発汗、めまい、震え、窒息感、吐き気、⼝の渇き、熱感・冷感、下肢の脱⼒、頭痛、⽿鳴り、尿意、便意(頻度順)などです。

では、このような⾃律神経失調の嵐のような症状はなぜ起こるのでしょうか。
最近の研究では、「恐怖条件付け」に関連する神経回路の機能異常が原因であるとされています。⼈間は、たとえば⼤きな⾳を⽴てると恐怖反応を⽰しますが、⼩さな⾳には反応しません。ところが⼤きな⾳と⼩さな⾳を同時に聴かせると、⼩さな⾳だけでも恐怖を感じるようになり、この状態が「恐怖条件付け」といわれます。これに関連する脳部位は、側頭葉の内側にある扁桃体であるとされています。つまりストレス反応のコントロールをするこの場所の機能不全がパニック障害の発病に関わっているのです。この場所は、幸いなことに前頭葉と縫線核(神経伝達物質の⼀つであるセロトニンを出す場所)から⼊⼒を受けていますので、前者に働きかける認知⾏動療法と後者のセロトニン量を調整する抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬=SSRI)を併⽤することで、かなりの改善が
得られます。

パニック発作は、うつ病、強迫性障害など他の精神疾患の前兆であったり、それらと合併することも多くみられます。また、放置するとパニックが起こる状況が拡⼤したり、不安強度が上がったりして社会⽣活に⼤きな影響を与えることがあります。軽症のうちに正しい診断を受け治療されることをお勧めします。

成人期の発達障害

最近では成⼈期の発達障害をご⾃⾝で疑って来院される⽅が⼤変増えています。特にADHD(注意⽋陥多動障害)と診断がつく⽅が増えております。不注意、多動、衝動性を幼児期からしめすものですが、⼤⼈になると不注意がより目⽴つようになり、仕事を持たれている⽅はとても苦労されているようです。当院では症状評価スケールを⽤いて正確な診断が可能で、またお薬と療養指導、時には環境調整の組み合わせにより患者さんにとってベストな治療を提供しています。うつ病や不安障害の背景にこのような発達障害が存在することは⼤変多く、早期に的確な診断をつけることは重要です。思い当たる⽅は⼀度来院の上、検査を受けることをお勧め致します。

ネット依存症

ネット依存症についてのシンポジウムに参加してきました。Facebook、LINEなどのsocial network service(SNS)、オンラインゲームなどが特に依存性が⾼く、仕事や勉強以外での使⽤が5時間以上を超えると危険性が⾼まるとのことです。成⼈に⽐較して思春期の⼦供達の⽅が圧倒的に問題のあるネット使⽤が多く、課⾦制のゲームを販売する会社のターゲットになり、タバコなどと同じようにその後も強迫的に使⽤を続けるようになるとのことでした。しかし、国際的な診断基準は未だに確⽴しておらず、⽇本などが中⼼となりWHOにも働きかけているようです。私のクリニックでも多くの若者が多⼤な時間とお⾦をネットやスマホに浪費しており、それを取り上げると家庭内暴⼒やうつ状態に陥ることをよく⾒ていました。もしかするとそのような精神状態の変化は依存症に⾒られる離脱症状かもしれません。このような⾏動に対する嗜癖は、アルコールや薬物などの化学物質に対する依存症と同⼀のものとして扱うことができ、それに関連する脳の部位(報酬系と呼ばれます)も共通であることが知られています。うつ病や発達障害などの精神疾患との合併も多いことが既に知られています。社会構造の問題も考えなければいけないとは思いますが、皆さん⼀⼈⼀⼈がこの疾患概念についてきちんとした知識を持ち、常に細⼼の注意を払って今後の動向を⾒守る必要があります。

統合失調症についての特集記事がでます。

⽉刊ケア「統合失調症」特集原稿2015-7⽉に掲載予定の取材記事です。統合失調症についてわかりやすく解説したものですので、皆さん是非読んでみてください。

正しい理解に基づく治療と⽀援が重要
統合失調症

 統合失調症と聞くと、重度の病気でなかなか治りにくいと思う⼈はいないだろうか。しかし精神科が扱う疾患の中では頻度が⾼く、近年ではさまざまな治療の選択肢が広がり、社会復帰が可能なまでに病気を取り巻く状況は変化してきている。⽉に約50⼈以上の統合失調症患者さんが訪れているという、まつもとメンタルクリニック(北区)の松本出(まつもと いずる)院⻑にお話を伺った。

100⼈に1⼈が罹患する珍しくない疾患

 統合失調症は、考えがまとまりにくくなったり気持ちが不安定になったりする状態が続く精神疾患。精神科ではうつ病などと並ぶ代表的な病気で、100⼈に1⼈の割合で発症するとされ、多くは10代後半から30代前半くらいまでに発病のピークがあるという。
「統合失調症の本質的な原因は解明されていませんが、前頭葉の機能障害による認知機能障害が疾患の中核であるということが分かってきています」(松本院⻑)。治らないのではという悪いイメージを持っている⼈も多いかも知れないが、治療薬やリハビリテーションの進歩によって社会復帰が可能となるまでに回復する病気となってきているという。

症状があっても本⼈は⾃覚がない

 症状は、陽性症状、陰性症状、情動障害、認知機能障害の4つに分類することができる。「陽性症状は本来あるはずのないものを⾒たり、聞いたりする幻覚や幻聴、あるべきでないことを信じ込んだりする妄想などの症状で、発症直後の急性期に起こる症状です。幻覚や妄想⾃体は他の精神疾患でも認められますが、統合失調症に特徴的なのは、本⼈に命令したりその存在を否定したりする内容の幻聴や他⼈が⾃分の悪⼝を⾔っているのではないか、バカにしているのではないかという疑い(被害関係妄想)などがあげられます。うつ病でも類似した症状が起こることがありますが、その違いは気分との同調があるかどうかという点がポイントとなります。うつ病の場合には気分が落ち込んでいる時期を中⼼としてこれらの症状が起こりますが、統合失調症では気分と無関係にこれらの症状が起こります。また⾃分の周囲の環境が無気味に変容して迫ってくる、誰かに付け狙われているという思い込みもよくみられます。このような症状があっても本⼈には病気だという認識がない(病識の⽋如)も特徴的です」。
 陰性症状は陽性症状とは反対に本来あるべきものがなくなる状態で、表情や感情などがなくなって無表情になったり、意欲が低下して引きこもってしまったりすることがよく認められる。陰性症状は、慢性期に徐々に始まり⻑期間にわたって患者さんとその家族を苦しめるものである。
 情動障害は主にうつ状態であることが多く、急性期の陽性症状治療後にみられることが多い。認知機能障害とは注意⼒や集中⼒が持続しない、記憶障害、判断⼒が鈍る、物事の段取りが分からなくなるなど統合失調症の中核ともいえる症状で、患者さんの社会⽣活を困難にする⼀⼤要因である。
 「認知機能障害は発症前の前駆段階からあるといわれており、発症の5年程前には既に不登校や引きこもりなど社会的適応が不⼗分になっているケースがよくみられます。現在は病気の早期発⾒・早期の治療的介⼊のためにこの前駆段階の症状の研究が進められています。近年注目されている発達障害でも類似した症状がありますが、発達障害では症状が初めから⼀定ですが、統合失調症ではある程度の年齢を過ぎてから徐々に症状が現れる傾向があります。この分野は現在まだ研究段階であり、今後の進展が期待されます」。

変化する症状に合わせた薬物療法

 治療は薬物療法やリハビリテーションで、精神症状の緩和はもちろんのこと、認知機能の低下を予防し、場合によってはそれ⾼めることを目標として進めていく。患者さんは病気に対する⾃覚がないことも多いが、まつもとメンタルクリニックではパンフレットや⼼理教育などを通して、患者さんや家族に病気に対する理解を深めてもらっているという。また治療を⾏っていく際にも、患者さんの病気の状態を明確に説明してから、どのように薬剤を選択、変更していくのかなどを相談しながら共に⽅針を決定していくように努めている。
 「治療の中⼼は薬物療法で、非定型抗精神薬といわれる抗精神薬が主流となっています。幻覚や幻聴、妄想などの症状が強い場合にそれを緩和する作⽤があり、現在は3剤まで併⽤することが出来ますが、できるだけ単剤での使⽤を⼼がけるように推奨されています。薬剤の副作⽤、特に鎮静効果が強すぎると認知機能を妨げてしまい社会復帰が遅れる可能性があることから、変化する症状に合わせてバランスをとって治療を進めていく必要があります」。

 急性期の陽性症状は、薬物療法を開始して約1〜2か⽉で落ち着いてくる。その後は認知機能を助け、再発を予防する目的で薬物療法を進めていく。
 「脳内神経伝達物質であるドーパミンの作⽤をブロックするドーパミンアンタゴニストというタイプの薬などがよく⽤いられますが、薬が強過ぎると副作⽤で陰性症状が悪化し、意欲やモチベーションの低下などが起こることがあります。そこで脳内の様々な部位に作⽤して効果を表すMARTAという薬剤や、ドーパミンという神経伝達物質の通り道を完全に遮断することなく、そのシステムのバランスをとる作⽤があるDSS(ドーパミン・システム・スタビライザー)という種類の薬剤が認可され、よりよい効果を得ながらかつ副作⽤の軽減も可能となっています」。
 統合失調症は再発を防ぐことが重要な病気で、症状がある程度収まっても薬を継続的に飲み続ける必要がある。そのため薬剤の形状などが⼯夫され、⼀⽇の服薬回数が1回ですんだり、⽔なしで飲むことが出来る(⼝腔内崩壊錠)などが可能となっている。また薬剤の中には注射薬もあり、1度の注射で2週間〜1か⽉効果が持続し、患者さんの服薬管理の負担軽減に役⽴つものもある。
 「再発の⼤きな原因の⼀つに服薬が継続できない、不規則になるということがあり、これも病気の症状の⼀つといえるかもしれません。統合失調症は再発を繰り返すと前頭葉の委縮が進⾏し、それとともに認知機能がさらに悪化することが知られています。低い認知機能はさまざまな⽇常・社会⽣活に必要な技能の低下をもたらし、患者さんの⽣活の質は悪化し、社会復帰が妨げられます。持続的に効果のある注射薬は⾎液中の薬剤濃度が安定していることから、確実に症状を改善し副作⽤が出にくいという利点もあり、当クリニックでは社会復帰に成功、定職が持続している事例もあります。患者さんからは、受診するとき以外は病気のことを忘れていられる、必要な⽇常⽣活により専念できるという声も聞かれます」。

家族もチーム医療の⼀員

 薬物療法以外にリハビリテーションも重要な治療となる。デイケアや作業所、就労⽀援などを通して対⼈スキルや社会的技能の習得などの促進が⾏われているが、地域で患者さんが安⼼して⽣活できるような受け⼊れ体制はまだ不⼗分なのが現状という。まつもとメンタルクリニックでは訪問看護ステーションや作業所などと連携し、トータルで患者さんをサポートする体制を整えているという。リハビリテーションの分野では認知機能に特化した認知リハビリテーションも⾏われるようになってきており、前頭葉を鍛えることで認知機能の底上げを図ることを目的としている。「簡単に⾔えば、脳トレのようなもので、集団で「伝⾔ゲーム」を⾏ったり、じゃんけんで相⼿より後に負ける⼿を出す「後だし負けじゃんけん」、「ジャスチャーゲーム」などさまざまなプログラムがあります。今後はコンピュータープログラムなども開発され、取り⼊れられていくのではと予測されます」。
 どのような病気もそうであるように、統合失調症も早期発⾒・治療を⾏うことが重要。リハビリテーションも急性期の強い症状が治まれば、早期に開始すること望ましいという。
 「多くの疾患に共通するように統合失調症の治療もチーム医療が重要です。医師、コメディカルなどの医療関係者と患者さん本⼈やそのご家族が協⼒して病気に向き合い、共通の正しい理解に基づきながら常に⼀緒に判断、選択を⾏いながら、継続的な治療と⽀援を⾏っていくことが⼤切です」。

スーパーウーマン症候群

よき妻、賢い⺟、孝⾏娘、そして模範的なワーキング・ウーマン…。何⼈分もの役割を⼀⾝に引き受けて、疲れ果ててはいませんか︖スーパーウーマン症候群の⼥性たちは、つねにオーバーワークの状態です。特に完璧主義で他⼈にものを頼むのが苦⼿な⼈は、何もかも⾃分で抱え込み、あげくの果てに⼼⾝に破綻をきたしてしまうのです。


以下の傾向のある⼈は注意しましょう︕
頼まれると、⾃分の予定より他⼈の仕事を優先させてしまう。
毎⽇働きづめで、⾃分の時間がとれず、休めない。病気以外の理由で休むことはよくないと思ってしまう。
何事も最後までやりとげないと気がすまない。細かいことに気をつかいすぎて疲れることが多い。目の前にある問題から解決しようとするため、問題が次々と出てきた場合、⼿を広げすぎて対処できなくなる。
仕事、夫婦関係、育児などすべてが完壁でないと、「⾃分はダメな⼈間だ」と思ってしまう。
罪の意識を感じやすい。
体調が悪くても、スケジュールがつまっていても、「ノー」と⾔えない。
他⼈に仕事を頼めない。ほかの⼈に仕事を任せると、⾃分の思いどおりにできあがっていないと感じる。
つねに家をきれいにしていないと気がすまず、こまごまとした仕事が目についてしまうため、家でもくつろげない。
仕事をしていても家庭が気になり、家でのスケジュールややるべきことをメモに書き留めておく。
夫が⾃分の考えに少しも気づいてくれないことにイライラしてしまう。
睡眠時間が短く、栄養が偏った⾷事でも気にならないなど、健康⾯に気をつかっている時間がない。

強迫性障害について

当院にも多くの強迫性障害の患者さんが治療のために通院されています。
強迫性障害とは、不安障害の⼀種であり、強迫観念と強迫⾏為(確認⾏為)という2つの症状で構成されます。観念とは、どうしてもこうあらねばならない、本当にやるべきことをやれていただろうかなどの考えが浮かんできてそれを振り払えなくなってしまうものです。このような強い観念が不安とともにわいてくるため、その不安を取り除くための何らかの儀式的⾏為を⾏わないといけなくなるのですが、これが強迫・確認⾏為です。非常に特徴的なのが、患者さんは⾃分の強迫性について「なぜこんなばかばかしいことをしてしまうのだろう」と不合理に感じ違和感をもっていることです。強迫性以外には⼈格や精神状態には異常はなく、部分的な障害を持ちながらもなんとか社会に適合している⽅が多いと感じます。しかし、このなんとかという部分が患者さんは⾟いわけですね。よくある症状を具体的にあげてみましょう。⾝体に何かばい菌がついている何度も⼿や⾝体を洗い直す、特定のものにさわれない、鍵や⽕の元が⼼配になり何度も確認する、時には出勤途中で不安になり何度も引き返してしまう⼈もいます。作成した⽂書に間違いがあると思って、通常以上に時間をかけて正確性をきそうとしてしまう、何か不吉なことが起こるように思えて、数歩ごとにふりかえったり靴紐を結び直したりと儀式的なことをせずにはいられない、などなど実に多彩な症状と悩みがついてまわります。これらの症状は、脳の帯状回という部位に異常があり、セロトニンという化学物質が不⾜することにより起こると推察されています。脳の機能異常ですから、やはりお薬による治療が第⼀とされます。SSRIという抗うつ薬を使って、不⾜したセロトニンを増やすことが最も有効ですが、反応があまり良くない時は、少量の別系統のお薬を少しだけ付加して反応性を⾼める⽅法もあります。強迫性障害は、以前は⼤変治りにくい病気でしたが、より効果が⾼く副作⽤の少ないお薬の登場で⽇常、社会⽣活にほぼ⽀障が出ない位に改善する⽅が⼤部分です。⼀定期間服薬をきちんと⾏えば、減薬、断薬も可能になる⽅もおられます。症状に思い当たるふしのある⽅は⼀度来院してみましょう。

うつ病の病前性格

うつ病の患者さんには、病前から特徴的な性格傾向が存在するとこがわかっていますし、⽇々臨床をやっているとなるほどと頷かせることと多く出会います。うつ病の治療は、抗うつ薬が主体ですが、このような性格特徴を正確に把握することで有効な精神療法が可能となります。
では分かりやすくリストアップしてみましょう。
1) 執着気質
物事や対⼈関係のささいなトラブルにとらわれ、融通性が乏しく、いつまでも嫌な感情をひきずってしまう性格です。
2) 過度の協調性
他⼈の評価が気になり、⾃⼰主張が苦⼿な性格です。常に他⼈の顔⾊ばかりを伺うのでとても疲れやすくなりますが、特に仕事などでミスをおかした時などに「⾃分のせいだ、⼈に迷惑をかけてしまう、申し訳ない」と⾃責的になってしまうことが多いです。また、明らかに相⼿が悪いのに、その⼈に意地悪なことを⾔われるともしかして⾃分にも非があるのではと勝⼿に考えてしまいます。
3) 強迫性
⾃分は絶対にこうあるべき、なぜ他⼈は⾃分の思う通り⾏動しないのだろうと考えて続けてしまいます。⾃分の理想なんてその通りに実現することはまず起こり得ませんし、ましてや他⼈が⾃分の考えた通りに⾏動してくれるはずがないので、このような考え⽅は必ず失望や怒りの感情を引き起こします。
4) 没⼊性
⾃分の体⼒、能⼒を過信しすぎ、⾃⼰モニタリングがうまくできず、ついついやり過ぎてしまう⼈達がいます。当然、過労や気⼒もすり減ってしまいますよね。
5) 否定的認知
1)から4)の傾向を持っていると、⼈間は、⾃⼰、周囲の環境、将来について否定的に考え出すようになります。否定的認知の3徴といいます。なにもやっても⾃分はダメ、周りが変わらないと⾃分も変われない、お先真っ暗、どうせやっても無駄に違いないと思い始めたら、うつ病にすでに⼀歩⾜を踏み込んでいるのかもしれません。
ご⾃分の性格、⾏動パターンをもう⼀度おさらいしてみましょう。