統合失調症についての特集記事がでます。

⽉刊ケア「統合失調症」特集原稿2015-7⽉に掲載予定の取材記事です。統合失調症についてわかりやすく解説したものですので、皆さん是非読んでみてください。

正しい理解に基づく治療と⽀援が重要
統合失調症

 統合失調症と聞くと、重度の病気でなかなか治りにくいと思う⼈はいないだろうか。しかし精神科が扱う疾患の中では頻度が⾼く、近年ではさまざまな治療の選択肢が広がり、社会復帰が可能なまでに病気を取り巻く状況は変化してきている。⽉に約50⼈以上の統合失調症患者さんが訪れているという、まつもとメンタルクリニック(北区)の松本出(まつもと いずる)院⻑にお話を伺った。

100⼈に1⼈が罹患する珍しくない疾患

 統合失調症は、考えがまとまりにくくなったり気持ちが不安定になったりする状態が続く精神疾患。精神科ではうつ病などと並ぶ代表的な病気で、100⼈に1⼈の割合で発症するとされ、多くは10代後半から30代前半くらいまでに発病のピークがあるという。
「統合失調症の本質的な原因は解明されていませんが、前頭葉の機能障害による認知機能障害が疾患の中核であるということが分かってきています」(松本院⻑)。治らないのではという悪いイメージを持っている⼈も多いかも知れないが、治療薬やリハビリテーションの進歩によって社会復帰が可能となるまでに回復する病気となってきているという。

症状があっても本⼈は⾃覚がない

 症状は、陽性症状、陰性症状、情動障害、認知機能障害の4つに分類することができる。「陽性症状は本来あるはずのないものを⾒たり、聞いたりする幻覚や幻聴、あるべきでないことを信じ込んだりする妄想などの症状で、発症直後の急性期に起こる症状です。幻覚や妄想⾃体は他の精神疾患でも認められますが、統合失調症に特徴的なのは、本⼈に命令したりその存在を否定したりする内容の幻聴や他⼈が⾃分の悪⼝を⾔っているのではないか、バカにしているのではないかという疑い(被害関係妄想)などがあげられます。うつ病でも類似した症状が起こることがありますが、その違いは気分との同調があるかどうかという点がポイントとなります。うつ病の場合には気分が落ち込んでいる時期を中⼼としてこれらの症状が起こりますが、統合失調症では気分と無関係にこれらの症状が起こります。また⾃分の周囲の環境が無気味に変容して迫ってくる、誰かに付け狙われているという思い込みもよくみられます。このような症状があっても本⼈には病気だという認識がない(病識の⽋如)も特徴的です」。
 陰性症状は陽性症状とは反対に本来あるべきものがなくなる状態で、表情や感情などがなくなって無表情になったり、意欲が低下して引きこもってしまったりすることがよく認められる。陰性症状は、慢性期に徐々に始まり⻑期間にわたって患者さんとその家族を苦しめるものである。
 情動障害は主にうつ状態であることが多く、急性期の陽性症状治療後にみられることが多い。認知機能障害とは注意⼒や集中⼒が持続しない、記憶障害、判断⼒が鈍る、物事の段取りが分からなくなるなど統合失調症の中核ともいえる症状で、患者さんの社会⽣活を困難にする⼀⼤要因である。
 「認知機能障害は発症前の前駆段階からあるといわれており、発症の5年程前には既に不登校や引きこもりなど社会的適応が不⼗分になっているケースがよくみられます。現在は病気の早期発⾒・早期の治療的介⼊のためにこの前駆段階の症状の研究が進められています。近年注目されている発達障害でも類似した症状がありますが、発達障害では症状が初めから⼀定ですが、統合失調症ではある程度の年齢を過ぎてから徐々に症状が現れる傾向があります。この分野は現在まだ研究段階であり、今後の進展が期待されます」。

変化する症状に合わせた薬物療法

 治療は薬物療法やリハビリテーションで、精神症状の緩和はもちろんのこと、認知機能の低下を予防し、場合によってはそれ⾼めることを目標として進めていく。患者さんは病気に対する⾃覚がないことも多いが、まつもとメンタルクリニックではパンフレットや⼼理教育などを通して、患者さんや家族に病気に対する理解を深めてもらっているという。また治療を⾏っていく際にも、患者さんの病気の状態を明確に説明してから、どのように薬剤を選択、変更していくのかなどを相談しながら共に⽅針を決定していくように努めている。
 「治療の中⼼は薬物療法で、非定型抗精神薬といわれる抗精神薬が主流となっています。幻覚や幻聴、妄想などの症状が強い場合にそれを緩和する作⽤があり、現在は3剤まで併⽤することが出来ますが、できるだけ単剤での使⽤を⼼がけるように推奨されています。薬剤の副作⽤、特に鎮静効果が強すぎると認知機能を妨げてしまい社会復帰が遅れる可能性があることから、変化する症状に合わせてバランスをとって治療を進めていく必要があります」。

 急性期の陽性症状は、薬物療法を開始して約1〜2か⽉で落ち着いてくる。その後は認知機能を助け、再発を予防する目的で薬物療法を進めていく。
 「脳内神経伝達物質であるドーパミンの作⽤をブロックするドーパミンアンタゴニストというタイプの薬などがよく⽤いられますが、薬が強過ぎると副作⽤で陰性症状が悪化し、意欲やモチベーションの低下などが起こることがあります。そこで脳内の様々な部位に作⽤して効果を表すMARTAという薬剤や、ドーパミンという神経伝達物質の通り道を完全に遮断することなく、そのシステムのバランスをとる作⽤があるDSS(ドーパミン・システム・スタビライザー)という種類の薬剤が認可され、よりよい効果を得ながらかつ副作⽤の軽減も可能となっています」。
 統合失調症は再発を防ぐことが重要な病気で、症状がある程度収まっても薬を継続的に飲み続ける必要がある。そのため薬剤の形状などが⼯夫され、⼀⽇の服薬回数が1回ですんだり、⽔なしで飲むことが出来る(⼝腔内崩壊錠)などが可能となっている。また薬剤の中には注射薬もあり、1度の注射で2週間〜1か⽉効果が持続し、患者さんの服薬管理の負担軽減に役⽴つものもある。
 「再発の⼤きな原因の⼀つに服薬が継続できない、不規則になるということがあり、これも病気の症状の⼀つといえるかもしれません。統合失調症は再発を繰り返すと前頭葉の委縮が進⾏し、それとともに認知機能がさらに悪化することが知られています。低い認知機能はさまざまな⽇常・社会⽣活に必要な技能の低下をもたらし、患者さんの⽣活の質は悪化し、社会復帰が妨げられます。持続的に効果のある注射薬は⾎液中の薬剤濃度が安定していることから、確実に症状を改善し副作⽤が出にくいという利点もあり、当クリニックでは社会復帰に成功、定職が持続している事例もあります。患者さんからは、受診するとき以外は病気のことを忘れていられる、必要な⽇常⽣活により専念できるという声も聞かれます」。

家族もチーム医療の⼀員

 薬物療法以外にリハビリテーションも重要な治療となる。デイケアや作業所、就労⽀援などを通して対⼈スキルや社会的技能の習得などの促進が⾏われているが、地域で患者さんが安⼼して⽣活できるような受け⼊れ体制はまだ不⼗分なのが現状という。まつもとメンタルクリニックでは訪問看護ステーションや作業所などと連携し、トータルで患者さんをサポートする体制を整えているという。リハビリテーションの分野では認知機能に特化した認知リハビリテーションも⾏われるようになってきており、前頭葉を鍛えることで認知機能の底上げを図ることを目的としている。「簡単に⾔えば、脳トレのようなもので、集団で「伝⾔ゲーム」を⾏ったり、じゃんけんで相⼿より後に負ける⼿を出す「後だし負けじゃんけん」、「ジャスチャーゲーム」などさまざまなプログラムがあります。今後はコンピュータープログラムなども開発され、取り⼊れられていくのではと予測されます」。
 どのような病気もそうであるように、統合失調症も早期発⾒・治療を⾏うことが重要。リハビリテーションも急性期の強い症状が治まれば、早期に開始すること望ましいという。
 「多くの疾患に共通するように統合失調症の治療もチーム医療が重要です。医師、コメディカルなどの医療関係者と患者さん本⼈やそのご家族が協⼒して病気に向き合い、共通の正しい理解に基づきながら常に⼀緒に判断、選択を⾏いながら、継続的な治療と⽀援を⾏っていくことが⼤切です」。