統合失調症の治療法(第3回)-認知機能障害について-

 統合失調症の症状の中では、幻覚、妄想など普段あるべきでないものが出てくる陽性症状、意欲低下や社会性の喪失などあるべきはずのものが失われる陰性症状がよく知られています。認知機能障害は、これらの症状と同列、ないしはそれ以上に重要な症状なのですが、あまりよく知られていないように思われます。難しい⾔葉ですが、統合失調症の特徴を知り、適切な治療をするには⽋かせない概念なので今回はこれについて紹介します。

 狭義の認知とは、外部からの情報を知覚し、判断し、記憶し、それに対して反応するという過程に関わる⼀連の脳機能をいいます。つまり、物事をスムーズに頭の中で処理する⼒のことです。これには、注意⼒、記憶⼒、遂⾏能⼒(実⾏能⼒)などが必要とされます。もう少し拡⼤した概念に、社会認知があります。社会認知とは集団の中で、刻々と変化していくメンバーの相互関係を把握し、それに応じて次にとるべき⾏動を臨機応変に選択し、適応的に⽣存していくために必要となる認知機能のことです。これには、他者に共感し、他者の⾏動を理解・予測・操作する能⼒が必要とされます。

 このような認知機能が、統合失調症の患者さんでは発症する前から存在していて、発症後にはさらに悪化することが知られています。加えて、患者さんには⾝辺⾃⽴、⾃律性、意志・意欲、社会性など、いわゆる「⾃分についての障害」が存在しています。これらの認知機能障害は精神症状以上に患者さんの⽣活における機能レベルと関連しており、以下のような⾷事、⾦銭、服装などの問題を含めた⽣活技能の不得⼿(⽣活障害)の原因になるのです。

・⼈付き合い、挨拶、気配りなどの対⼈関係の問題
・仕事場では⽣真⾯目と要領の悪さが共存し、飲み込みが悪く、習得が遅く、⼿順への無関⼼、能率
・技術の低さが、協⼒を必要とする仕事に困難をもたらす
・安定性に⽋け、持続性に乏しい
・現実離れ、⽣きがい、動機づけの乏しさ