パニック障害について

今回は、当クリニックに新たにおみえになる患者さんに多くみられるパニック障害についてお話します。

この疾患については、120年以上前の精神医学の教科書にWestphalという先⽣がすでに記載していて、現在の診断基準とほぼ同じであることに驚かされます。それによれば「動機もないのに⾃分でも説明のつかない不安や恐怖感に襲われ、震え、胸の圧迫感、動悸、熱感など様々な症状が出現し、⼀時的に気が狂いそうな感じや死の恐怖もみられる。そして患者はそのようなことが起こる場⾯・状況を回避する」とあります。男性(約2%)より⼥性(約5%)に多くみられ(平均3〜4%)、⽐較的若い時期(20代後半から30代前半にかけて)に発症します。症状は多彩で、最も多くみられるのが⼼悸亢進と呼吸困難ですが、その他にも以下のようなものがみられます。死の恐怖、発狂恐怖、発汗、めまい、震え、窒息感、吐き気、⼝の渇き、熱感・冷感、下肢の脱⼒、頭痛、⽿鳴り、尿意、便意(頻度順)などです。

では、このような⾃律神経失調の嵐のような症状はなぜ起こるのでしょうか。
最近の研究では、「恐怖条件付け」に関連する神経回路の機能異常が原因であるとされています。⼈間は、たとえば⼤きな⾳を⽴てると恐怖反応を⽰しますが、⼩さな⾳には反応しません。ところが⼤きな⾳と⼩さな⾳を同時に聴かせると、⼩さな⾳だけでも恐怖を感じるようになり、この状態が「恐怖条件付け」といわれます。これに関連する脳部位は、側頭葉の内側にある扁桃体であるとされています。つまりストレス反応のコントロールをするこの場所の機能不全がパニック障害の発病に関わっているのです。この場所は、幸いなことに前頭葉と縫線核(神経伝達物質の⼀つであるセロトニンを出す場所)から⼊⼒を受けていますので、前者に働きかける認知⾏動療法と後者のセロトニン量を調整する抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬=SSRI)を併⽤することで、かなりの改善が
得られます。

パニック発作は、うつ病、強迫性障害など他の精神疾患の前兆であったり、それらと合併することも多くみられます。また、放置するとパニックが起こる状況が拡⼤したり、不安強度が上がったりして社会⽣活に⼤きな影響を与えることがあります。軽症のうちに正しい診断を受け治療されることをお勧めします。