「武⼠道」という書物、ご存じのとおり今から100年以上前に新渡⼾稲造によって書き上げられた本ですね。「武⼠道」では、⽂字どおり、武⼠が重視した伝統的な価値観や⾏動規範が述べられていますが、その普遍性には⼤いなるものがあり、今なお時代や国境を越えて読み継がれています。武⼠道には、それを記した特別な書物は存在しませんでした。元来は⽇本の風⼟の中で⾃然に発⽣してきた、不⽂律の「掟」であったのです。新渡⼾によってはじめて体系的にまとめられ世に知られるようになりました。新渡⼾は「武⼠道」のなかで、武⼠が重んじた価値として7つの徳目を説いていますが、最も代表的なものが、「義」「勇」「礼」の3つです。
「義」とは、「⼈として必ず守らなければならない道」のことです。徳目の中でも武⼠によってもっとも重んじられたものです。ここで重要なのは、道を守り正義を追求することは時として理屈に合わない状況を⽣むこともある、ということです。義をなすことは、「不合理の精神」を⽣む可能性を秘めているのです。 しかし、それでもなお、義を重んじることは、⻑期的に⾒ればその⼈の徳を⾼め、他⼈から信頼され、それを通して社会に貢献することにつながるのです。
「勇」。恐れることなく敵陣に切り込むことが、武⼠には求められていたような印象が先⾏しますが、これは間違ったとらえ⽅です。勇とは、「義を⾒てせざるは勇なきなり」という⾔葉があるように、ただ単に豪胆な⾏動をとることではなく、「義」に裏打ちされた⾏動でなければならないのです。向こう⾒ずな挑戦や後先考えない⾏動は逆に軽蔑されていました。また、勇とは、どんな困難な状況に陥っても動じない平常⼼を持てることも意味していました。
「礼」というと「礼儀」、「マナー」など、儀式的、作法的なことを連想しがちですよね。もちろんそれも⼤切ですが、「礼」とは「相⼿の価値は世界中の何物にも勝る」という考え⽅に基づき、「他者の喜びや悲しみを⾃分のことのように感じる能⼒でもある」と述べられています。
義、勇、礼。この三つを頭において実⾏を⼼がけるだけで、⼈の⽣き⽅はずいぶん変わってくると思いませんか。⼈と争ったり傷つけ合うこともことなく、「武⼠道」の格⾔、「最善の勝利は⾎を流さずに得た勝利である」を目指して⼰を律してゆく⼀年にしたいものですね。