02不安障害」カテゴリーアーカイブ

強迫性障害について

当院にも多くの強迫性障害の患者さんが治療のために通院されています。
強迫性障害とは、不安障害の一種であり、強迫観念と強迫行為(確認行為)という2つの症状で構成されます。観念とは、どうしてもこうあらねばならない、本当にやるべきことをやれていただろうかなどの考えが浮かんできてそれを振り払えなくなってしまうものです。このような強い観念が不安とともにわいてくるため、その不安を取り除くための何らかの儀式的行為を行わないといけなくなるのですが、これが強迫・確認行為です。非常に特徴的なのが、患者さんは自分の強迫性について「なぜこんなばかばかしいことをしてしまうのだろう」と不合理に感じ違和感をもっていることです。強迫性以外には人格や精神状態には異常はなく、部分的な障害を持ちながらもなんとか社会に適合している方が多いと感じます。しかし、このなんとかという部分が患者さんは辛いわけですね。よくある症状を具体的にあげてみましょう。身体に何かばい菌がついている➡️何度も手や身体を洗い直す、特定のものにさわれない、鍵や火の元が心配になり何度も確認する、時には出勤途中で不安になり何度も引き返してしまう人もいます。作成した文書に間違いがあると思って、通常以上に時間をかけて正確性をきそうとしてしまう、何か不吉なことが起こるように思えて、数歩ごとにふりかえったり靴紐を結び直したりと儀式的なことをせずにはいられない、などなど実に多彩な症状と悩みがついてまわります。これらの症状は、脳の帯状回という部位に異常があり、セロトニンという化学物質が不足することにより起こると推察されています。脳の機能異常ですから、やはりお薬による治療が第一とされます。SSRIという抗うつ薬を使って、不足したセロトニンを増やすことが最も有効ですが、反応があまり良くない時は、少量の別系統のお薬を少しだけ付加して反応性を高める方法もあります。強迫性障害は、以前は大変治りにくい病気でしたが、より効果が高く副作用の少ないお薬の登場で日常、社会生活にほぼ支障が出ない位に改善する方が大部分です。一定期間服薬をきちんと行えば、減薬、断薬も可能になる方もおられます。症状に思い当たるふしのある方は一度来院してみましょう。

善行を積もう!

人と交わることに脅えたり、不安を感じ、それを回避してしまう社交不安障害という病気があります。当院でも多くの患者さんの治療にあたってきました。カナダの大学から発表された最近の研究によれば、この病気の患者さんは、親切行為を行うことによって、他人とリラックスして交流しやすくなるとのことです。親切な行為をおこなうことは、本人の幸福感を高め、世界観を肯定的に変えることが知られており、肯定感を持ちながら他人と関わることでより社会生活に適合しやすくなるとのことです。善行を行い、他人から感謝されることで、拒絶されることへの不安と恐れが緩和され、症状と社会生活の質を改善が期待できるようです。一日一善、人類みな兄弟!、どこぞの競艇ヤクザの言葉のようですねえ。

不安とその対処法について

我々は、日常の様々な局面において日々不安というものに直面させられますね。不安のない日はないと言っても過言ではありません。私もクリニックの患者さんのことはもちろん、自分の将来設計のこと、お金のこと(もちろん資産運用などではなく、お金がないことへの不安)、鎌倉に残してきたおふくろのこと、ひいては愛犬の大和君と武蔵君の去勢手術(いよいよ来週です、何しろ玉がなくなるイコール性転換手術でしょ、そりゃ不安ですよ)のことなど様々な不安を抱えて毎日を過ごしています。不安は様々な現れ方をします。動悸、息苦しさや発汗などの自律神経症状、イライラ、パニックなどの感情症状、回避や強迫的になるなどの行為としての変化、自分の身体や感情について過度に心配するなどの認知面での変化などがありますね。でも不安とは本来あって当たり前のものであって、「成功しないと」「間違ってはいけない」などと考える向上心のある人ほど不安は強くなるものです。言ってみれば、不安がなければそれを乗り越えようと努力することもないわけで、それでは人間は進歩しないわけなのです。少し古い例ですか、アメリカとソ連の冷戦時代にはお互いがいつ襲ってくるか不安なのでそれに対処しようと必死になった結果、科学技術が飛躍的に進歩してしまった(どうやら悪い方向へですが)などがあります。しかし、不安も度がすぎるとノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質が変化をはじめ、不安が不安を呼ぶ、へたをするとうつ病になってしまうこともあり、そうなると全く逆の効果しか生まれなくなります。従って、「今、ここで」に集中してベストを尽くすために、不安を適切にコントロールすることが重要になります。薬物に頼らずにセルフコントロールを行う方法が様々提唱されていますが、ここでは自立訓練法をご紹介いたします。自立訓練法とはドイツの精神医学者であるシュルツによって提唱された心身のリラックスを目的とする自己催眠法です。まず部屋の照明を暗くしてゆったりと腰かけましょう。それから「気持ちが落ち着いている」と2-3回繰り返してつぶやいてください。その後、同じことを心の中で数回イメージしましょう。続いて次の6つのステップを順番に行っていきます。いずれもイメージを思い浮かべることで実際の感覚の変化が得られるまで行います。1)手足が重たい(右手、左手、右足、左足の順で)2)手足が暖かい(1)と同じ順で)3)心臓が静かに正しく打っている 4)楽に呼吸している 5)おなかが温かい 6)頭が心地よく涼しい。これらを知覚できたら最後に両手を思い切りひろげたり、背伸びをしたり、深呼吸をしてリセットしましょう。以上を最初は15分くらいかけてゆっくり行いますが、慣れてくると5分くらいでできるようになりますよ。毎日毎日、私たちの脳は動きっぱなしで休まる時がありませんよね。せめて就寝前のわずかな時間でも有効に利用して、忙しい日常から意識を離しリラックスすることを心がけましょう。

パニック障害について

院長、松本です。
最近やや多忙というかやや怠けていたというか、で更新が遅れてすみません。
今回は、当クリニックに新たにおみえになる患者さんに多くみられるパニック障害についてお話します。

この疾患については、120年以上前の精神医学の教科書にWestphalという先生がすでに記載していて、現在の診断基準とほぼ同じであることに驚かされます。それによれば「動機もないのに自分でも説明のつかない不安や恐怖感に襲われ、震え、胸の圧迫感、動悸、熱感など様々な症状が出現し、一時的に気が狂いそうな感じや死の恐怖もみられる。そして患者はそのようなことが起こる場面・状況を回避する」とあります。男性(約2%)より女性(約5%)に多くみられ(平均3~4%)、比較的若い時期(20代後半から30代前半にかけて)に発症します。症状は多彩で、最も多くみられるのが心悸亢進と呼吸困難ですが、その他にも以下のようなものがみられます。死の恐怖、発狂恐怖、発汗、めまい、震え、窒息感、吐き気、口の渇き、熱感・冷感、下肢の脱力、頭痛、耳鳴り、尿意、便意(頻度順)などです。

では、このような自律神経失調の嵐のような症状はなぜ起こるのでしょうか。
最近の研究では、「恐怖条件付け」に関連する神経回路の機能異常が原因であるとされています。人間は、たとえば大きな音を立てると恐怖反応を示しますが、小さな音には反応しません。ところが大きな音と小さな音を同時に聴かせると、小さな音だけでも恐怖を感じるようになり、この状態が「恐怖条件付け」といわれます。これに関連する脳部位は、側頭葉の内側にある扁桃体であるとされています。つまりストレス反応のコントロールをするこの場所の機能不全がパニック障害の発病に関わっているのです。この場所は、幸いなことに前頭葉と縫線核(神経伝達物質の一つであるセロトニンを出す場所)から入力を受けていますので、前者に働きかける認知行動療法と後者のセロトニン量を調整する抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬=SSRI)を併用することで、かなりの改善が得られます。

パニック発作は、うつ病、強迫性障害など他の精神疾患の前兆であったり、それらと合併することも多くみられます。また、放置するとパニックが起こる状況が拡大したり、不安強度が上がったりして社会生活に大きな影響を与えることがあります。軽症のうちに正しい診断を受け治療されることをお勧めします。