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統合失調症の新しい治療法について(第一回)

院長、松本です。
統合失調症は100人に一人が発症する精神科領域の中核的疾患です。
幻覚妄想だけでなく、慢性期には意欲低下や引きこもり、さらには気分の落ち込みなど様々な問題を起こす病気です。若くして発症し、その後の社会復帰が難しくなる方が多いため、社会的にみても重大な疾患といえるでしょう。

副作用が少ないと言われる新しい薬(抗精神病薬といいます)が、最近10数年の間に続々と日本でも使われるようになり、治療法に進歩が見られることは明らかですが、その予後についてはまだまだ楽観できるものではありません。

今回からは、私の専門のひとつである統合失調症の治療法について、治療薬とリハビリテーションに焦点をあてて、数回に分けて解説してみたいと思います。第一回目は、統合失調症の王道的な治療法、抗精神病薬による治療について解説します。

抗精神病薬が統合失調症の治療に使われるようになったのは1950年代からです。クロールプロマジン(商品名:ウインタミン、コントミン)という、それまで麻酔薬として使われていた薬が統合失調症の興奮などの症状に効果があることが分かって応用されるようになったのが始まりです。そこから薬の開発が始まり、ハロペリドール(商品名:セレネース、リントン)、レボメプロマジン(商品名:ヒルナミン、レボトミン)など、現在でも使われている代表的な薬が生まれました。ただし、これらの旧世代(定型薬とも呼びます)の抗精神病薬には、動きを鈍くしたり、振るえがひどくなったり、不随意運動(自分でコントロールできない異常運動)などの副作用が見られ、さらに幻覚や妄想(通常では見られない異常な精神病体験)にしか効果が見られないという欠点、限界があったのです。

次回は、最近10~20年で急速に発展して、臨床治療にも応用されてきている新しい抗精神病薬について解説することにします。

こころに効く漢方薬

開業して6週間が経とうとしています。その間、90名以上の患者さんが新たに受診されました。この方々は前任地の旭山病院で診ていた患者さんとはだいぶ異なり、以下のような病態、症状を呈する方が多いようです。診断名としては、うつ病、不安障害、パニック障害、適応障害など、症状として多いのが気分の落ち込みや気力低下、息苦しさや胸がつまる感じ、動悸、過呼吸発作、冷汗、思考の混乱、著しい恐怖感(気が狂うのではないか、死ぬのではないか)、イライラ、抑えがたい怒りや恨みの感情、不眠などが見られます。治療として抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を用いますが、最近ではそれらに加えて漢方薬を処方することが増えています。それによって薬の量を最低限に抑え、副作用の少ないより安全な治療が可能になります。また、漢方薬には、西洋薬では改善しにくい漫然とした症状を劇的に改善して患者さんから大変喜ばれることもあります。上記の症状に対してよく使っている漢方は以下の通りです。
紫胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
うつ傾向が長引いていて、体力的にも弱っている方に使います。
紫胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
動悸、息苦しさなど不安症状が中心で、比較的体力のある方向きです。男性に多く処方します。
桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
紫胡加竜骨牡蠣湯と同じですが、体力のない方、特に女性向きの薬です。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
不安症状のひとつとして、のどがつまる、胸が重苦しく違和感が強い場合に使います。
劇的に改善することが多いです。
抑肝散(よくかんさん)ないし抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
他人から理不尽な扱いを受けて、いらいらや怒りのおさまらない方の気持ちを安定化します。

ご存じのように漢方には様々な種類のお薬があります。精神疾患のみならず身体の病気の治療にも使いこなせるようになりたいものです。

今後の記事掲載予定です

先日取材をいただきました、北海道医療新聞に2月18日、月刊誌ケア4月号(2月20日発行)に当院に関する記事が掲載されることになりました。医療新聞は医療関係者を中心に配布されるものなので皆さんの目に触れることは少ないですが、ケアは病院などの待合室によくおいてありますのでみれると思います。どちらも院内に掲示しておきますので、ご来院の際は是非ごらんください。

精神科で使われる薬について

皆さんは精神科で使われる薬についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?依存性がある(癖になる)、副作用が多い、飲むと眠くなる、よく分からないので怖い、などあまり良くないイメージを抱いている方も少なくないかもしれません。今回はそのような誤ったイメージを払拭するべく、精神科でよく使われる薬について解説してみたいと思います。精神科領域で使われる薬は向精神薬と総称されます。向精神薬には、幻覚や妄想をなくす抗精神病薬、うつ症状を改善する抗うつ薬、不安を減ずる抗不安薬、睡眠を助ける睡眠薬、てんかんや気分の安定化に効果のある抗てんかん薬などがあります。これらの薬は、主要な症状を軽減するために用いられるのはもちろんですが、様々に組み合わせて用いることで相乗的な効果が期待できます。例えばうつ病の患者さんに抗うつ薬と睡眠薬を合わせて使用することなどは多く見られます。しかし薬剤の種類が増えればその分副作用のリスクが増しますし、治療にかかる費用も高くなります。したがって必要最低限の薬剤で治療を進めることが理想であることは言うまでもありません。そのためにはご自分が服用する薬について、主治医の先生とよく話し合い、できるだけ多くの情報を得て、十分に理解したうえで、服薬すること[shared decision making (SDM)と呼びます]が大切です。最近はSDMに加えて、できるだけシンプルな処方と服薬形式を目指すことがより重視されています。さまざまな薬剤が開発され、症状にもよりますが1日1回の服薬で十分な効果を得ることも可能になってきています。そのような薬物療法を、きちんとした精神療法(カウンセリング)と併用することで症状がより改善しやすくなります。ご自身が受けられている治療をもう一度見直し、正しい精神科治療を受ける姿勢を自らが持つことは大変重要だと思われます。

うつ病に関しての記事を出します

院長、松本です。開業以来、さまざまなストレスからくるうつ病ないしはうつ状態の症状で来院される方が増えています。専門医療機関から正確な知識の提供を受けてこの病気の治療や早期発見、予防に役立ててもらいたいと思います。2月7日の北海道新聞夕刊にこの問題に関しての記事を書かせていただきましたので、是非皆様に読んでいただけるようお願いします。